天気予報によると、この日は季節はずれの寒気によって例年よりもかなり気温が低くなるとの予想だった。尾瀬付近の朝の気温は、まだ9月下旬というのに10℃の予想。実際、早朝の鳩待峠は、おそらく1ケタ台だったろう。おまけに小雨も降っていた。皆、鳩待峠休憩所の中になだれ込み、雨支度を整えている。雨が止みそうもないので、あきらめて尾瀬ヶ原にでも下りようかと迷うが、ポツポツと登山道に入っていく人も見られたので、この後天気がよくなることを期待しつつ6:00すぎ、至仏山登山道に入る。
どれくらいか歩いて、高度が上がり始めると、小雨が小雪に変わってきた。7:30にオヤマ沢田代に到着する頃には、あたり一面、うっすらと白い雪に覆われていた。視界は20mほどだったろうか。その先に展望台らしき場所もあったのだが、尾瀬ヶ原など望めるはずもない。
さらに高度が上がり、樹林が低くなるにつれて風も強くなってくる。極めつけは小至仏山から至仏山への稜線のあたりで、吹雪というより、氷の粒混じりの冷気が斜面を駆け上がり、強烈に吹き付けてくる。辺りの樹々は霜にコーティングされているかのように白くなっている。よく見るとかなり紅葉した樹々もあるようで、晴れていれば秋色に染まる稜線を拝めたにちがいない。
雪と風の中、濡れた蛇紋岩を慎重に登り9:30、至仏山登頂。あたり一面白い世界で展望ゼロ、人影なし。本来ならここで眼下の景色を眺めながら昼食といきたいところだが、吹き付けてくる風が強烈で、立ち止まっていると寒いのだ。何も食べないわけにはいかないので、冷たくなったパンをほおばり、そそくさと下山。
その後は来た道を引き返し、前述の展望台あたりに差し掛かったとき、遠くから「おお、見えた。見えた」という声が聞こえてきた。何が見えるのかと左方に目をやると、うっすらと晴れかかった雲の向こうに、草紅葉に覆われた尾瀬ヶ原が見えるではないか。少しだけ救われた気分だ。結局ほとんどノンストップで歩き、へとへとになって鳩待峠に戻ってきたのが12:40。話によるとこのときの気温は5℃だった。
鳩待峠からの至仏山登頂コースはさほど難易度が高くないとのことだし、ましてや本格的な雪山登山とは比較にもならないとは思うが、自分にしてみれば、今回はかなり過酷な体験であった。
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